株式会社オービックビジネスコンサルタント(OBC)
営業本部 マーケティング部
部長
西 英伸
弊社の管理システムの特徴がアラート機能。残業時間や有休消化などは、上長と本人の双方にメールで通知します。また、打刻はスマホと連動し、外出先からも手軽に入力できます。

人事総務部門こそデジタル化を! クラウド活用で「攻め」の施策

働き方改革で計8本の法改正が行われた。どれも重要な制度変更だが、なかでも大きいのは、残業時間の上限規制と有休取得の義務化だろう。中堅企業では一足先に2019年4月から適用が始まっている。

施行から約1年が経ったいま、結果はどうなったのか。大企業の対応状況は、今春から施行が始まる中小企業にとっても気になるところだ。株式会社オービックビジネスコンサルタント営業本部マーケティング部部長、西英伸氏は次のように実態を明かす。

「中堅企業の現状は三つに分かれます。まず、制度変更に合わせて業務フローを見直して、業務改善や生産性の向上につなげているグループ。二つ目は、ひとまず法令順守のために最低限の対応をしているグループ。そして最後が、制度変更に合わせてツールを導入したものの、うまく対応できずに手こずっているグループです。もっとも苦労しているのは、最後の企業群。大雑把にいって、中堅企業の半分くらいは、このグループに入っている印象です」

残業や有休の管理には勤怠管理ツールが欠かせないが、なぜツールを導入してもうまく対応できていない企業が続出しているのか。
西氏は「自社の実態を把握しないままベンダー任せで導入すると失敗しやすい」と指摘する。

「夜勤を含めて3交代なのに複雑なシフトに対応できないツールを入れていたり、営業担当の直行直帰が多いのに出先でタイムカードを打刻できなかったり。導入後に自社の勤務実態とズレがあることがわかり、最初からやり直している企業が目立ちます」

経営リソースに比較的恵まれている中堅企業でさえ、制度変更に対応できずにつまずくケースが多発している。
余裕がなくてベンダー任せになりがちな中小企業は、さらに注意が必要だ。

法令違反になる前に勤怠を適切に管理

実際、中小企業の勤怠管理には課題が山積みだ。規模によっては、いまだに紙で管理していたり、デジタル化していても表計算ソフトでの管理にとどまっていたりする企業も多い。それらの管理法では、複雑さを増した勤怠管理に対応するのは困難だ。

たとえば今回の法改正で、特別な事情があって労使が合意している場合でも、休日出勤を含む時間外労働は月100時間未満、複数月平均で月80時間以内と上限が定められた。一般的な表計算ソフトで毎月の平均時間まで算出するのは至難の業だ。

また、仮に把握できたとしても、上限を超えた後で発覚したのでは意味がない。西氏は次のように警鐘を鳴らす。
「法令違反で労働基準監督署が入り、是正勧告を受ければ、採用に大きな影響が出るでしょう。また、今回の改正で罰則もできました。社員に年5日の有休を取得させなかったことが後で判明したら、〝一人一罰〞で最大30万円の罰金が人数分、科せられるおそれがあります。そうなれば費用的な負担も大きい。大切なのは、勤怠の状況をリアルタイムに把握して、手遅れになる前にコントロールすること。従来の延長では、それが難しいことを理解したほうがいいでしょう」

法令遵守できても、管理部門の負担を軽減しないと意味がない

制度変更による負担増をチャンスに変える方法

中小企業が抱える問題がもう一つある。担当者の負担の重さだ。人事労務の仕事は、勤怠管理だけではない。保険や年末調整の手続きなど多岐にわたるが、それぞれの業務負担が制度変更で増している。たとえば2019年4月からは65歳以上にも雇用保険の適用が開始。該当者がいれば、それだけ人事労務の作業量は増えていく。

「専任ならいいほうです。中小企業の人事労務担当者の多くは総務との兼任で、名刺の手配やマイナンバー管理など、ただでさえやるべきことが多い。そこに制度変更が加われば、立ち行かなくなる企業も出てくるのでは」
担当スタッフを増やせばカバーすることも可能だが、現実には逆の現象が起きているという。

「これまでも社員20〜30人で総務が一人という企業は珍しくありませんでした。しかし人手不足は深刻で、近年は中規模の企業でも〝一人総務〞が増加しています。先日は社員600人で総務一人というケースも聞きました。少ない人数で業務を回せる体制を整えることが急務です」

残業時間などは正確に計算しなくては、給与にも影響する。そこで、渉外担当者などを中心に「みなし残業」として認めている企業も少なくないが、その数値が実態に即したものであるとは、必ずしも言えないケースもある。働き方改革で、実態からかけ離れた「みなし残業」にメスが入る可能性もある。
オービックビジネスコンサルタントは、『奉行Edge 勤怠管理クラウド』『総務人事奉行クラウド』などで企業の人事労務業務を支援している。最新ツールはリソースの乏しい中小企業の心強い味方だが、西氏が見据えているのは、法令対応のその先だ。

「法令対応は、企業活動を継続するための〝守り〞の総務です。業務効率化ができて担当者に余裕ができれば、採用強化や社員のタレントマネジメントなど、〝攻め〞の施策を考えることもできます。ツールの活用は、そのための第一歩です」
利益を直接生まない管理部門は、普段、経営陣から見向きもされないのが実情だ。しかし、法令対応のニーズが高まっている現在なら、経営陣も人事労務に注目している。この機を逃さず、守りから攻めへと転換できるか。人事労務担当者としても、いまが正念場だ。

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取材日:2020年3月

編集協力 プレジデント社 企画編集本部