株式会社SmartHR
執行役員
SmartHR人事労務研究所 所長
副島 智子
SmartHRは、シェアNo.1のクラウド人事労務ソフトです。入退社手続きや従業員情報の一元管理、年末調整にいたるまで、あらゆる人事・労務管理をペーパーレス化します

業務効率化のロードマップ

「長年、人事労務に携わってきましたが、ここ数年の法改正の多さは過去に記憶がないほど。いまは歴史的な変革期かもしれません」
人事労務における近年の動きをこう評したのは、株式会社SmartHR執行役員で、人事労務研究所の所長を務める副島智子氏だ。

「残業時間の上限規制が注目されていますが、それ以外にも重要な変更が数多くあります。それぞれについて情報をしっかりキャッチアップしなければ、対応が後手に回るおそれがあります」
たとえば2019年4月から有休5日取得義務が施行された。この義務化は中小企業への猶予期間はなく、すべての企業に一斉適用となったことを知っている経営者は多いだろう。この制度変更への対応には、想像以上に多くの業務が発生したはずだ。有休が発生するのは、入社してから半年後。中途採用中心で従業員の入社日がまちまちだと、義務化の適用日は一人ひとり異なる。それに合わせて柔軟に管理ができる体制を整えていなかった場合、実務で相当な苦労をしたことだろう。

「いまは誰でも情報が手に入る時代です。社員のほうが経営者や担当者より情報のキャッチアップが早く、『あの制度への対応はどうなっていますか』と問い合わせてくるケースもあるでしょう。そのとき初めて制度変更を知ったという状況では、法対応への出遅れはもちろん、社員の不安につながります。制度変更の情報をいち早くキャッチアップして計画的に対応していくことが非常に大切です」

明るく見やすいビジュアル。
従来のように人事労務担当が紙などのアナログで煩雑な業務を行う必要はない

名ばかりの対策ではなく現状認識を踏まえた対策が必要

制度変更のスケジュールはあらかじめ公表されている。万全の体制で制度変更を迎えるためには、そこから逆算して動き出す必要がある。
では、どれくらい前から動き出せばいいのか。パワハラ対策義務化が大企業では2020年6月から、中小企業では22年4月から始まる。企業は相談体制の整備や被害者へのケア、再発防止策などの具体的な措置を講じることが求められるが、名ばかりで実態の見えにくい対策では意味がない。

「いきなり仕組みを作るのではなく、まず社内にパワハラがあるのか、社員の認識はどうなのかといった現状把握が必要です。社員にヒアリングしてから調査したうえで方針を決め、具体的な措置を整備。その際も、『こういう制度ができたから』と押しつけるのではなく、社員とコミュニケーションを取りながら進めることで理解を得られ、社内に定着しやすい。このプロセスを数週間で行うのは現実的ではありません。ケースバイケースですが、できれば制度変更の半年前から動き出したいところです」

企業の人事労務が取り組むべき課題は他にもある。たとえば電子申請義務化だ。これまでも社会保険や健康保険、雇用保険などの申請手続きはデジタルでできたが、それが2020年4月から義務化される。
電子申請が進めば、行政だけでなく、企業側も効率化が進む。これまでは手続きのために大量の書類を作成したり、順番待ちの列に並んだりと、多くの時間を要した。こうした無駄を省くことができれば、生産性が向上し、労働時間は削減され、経営者や人事労務の担当者は大助かりだろう。ただし注意点もある。

「電子申請にも準備が必要です。まず『e‐Gov』という政府の電子申請システムを使うのか、SmartHRのような民間企業のサービスを使うのかを決めなくてはいけません。いずれにしても会社ごとに合わせた検討事項や設定があり、即時導入とはいかない点にも注意が必要です」
制度変更対応の初期段階は現状把握と早めの動き出しが肝要というわけだ。

繁忙期になる前の時点で準備を進められるかがカギ

年末調整シーズンになる前に早めのデジタル化が望ましい

制度変更以外では、繁忙期が予想しやすい業務についても早めの準備が効果的だ。人事労務関係でいえば、年末調整はその一つといえるだろう。
年末調整は12月に支給される給料の給与計算に間に合うように処理をしなければならない。具体的には、国税庁のHPにある書類をダウンロードして人事労務が社員に送付。記入してもらったあと回収して手でエクセルに入力したのち、データを給与計算に流す。
このやりとりに、大変な手間と時間がかかる。

「たとえば従業員計1000人が全国の店舗にいる会社だと、計4000枚の書類を各地とやりとりしなければなりません。10月から始めて12月前半まで、人事労務担当は多忙を極めます。この時期だけ派遣社員にきてもらって何とか乗り切る企業は少なくありません」
毎年業務過多になる時期がわかっているなら、事前にデジタル化をして紙のやりとりが発生しない体制を整えておくこともできる。たとえばSmartHRを活用すれば紙の配布や記入、郵送等の手間は不要になる。

従業員にパソコンやスマホで入力してもらい、そのデータをそのまま給与計算システムに流すことも可能だ。
「デジタルツールの導入で、人事労務の負担は大幅に軽減できます。ただ、自社の課題を徹底的に洗い出して、それに合致したものを検討すべきでしょう。また、サービス導入以前の問題ではありますが、経営者の方が人事労務担当の社員を『事務作業をしている人たち』と見ている企業は今も見受けられます。こうした認識を改め、経営陣が人事労務担当とタッグを組んで諸制度変更への対応や働き方改革を進めていくべきだと考えています」

取材日:2020年3月

編集協力 プレジデント社 企画編集本部